東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1342号 判決
一、原審における被控訴本人の陳述によれば、建物所有の目的で本件土地を自ら使用することを必要とすること明かであるのみでなく、成立に争のない乙第五号証の十ならびに原審および当審における各検証の結果によれば、前記被控訴人の有する建物存在部分以外の本件土地は、その裏面で袋地をなし、使用価値極めて低く、まして当審証人五十嵐重男の証言により窺われるように、控訴人がここで従前営んでいた呉服商を営もうとする計画であるにおいては、その目的を達すること殆んど不可能で、控訴人にその部分のみを使用せしめることは無意味に等しい。これに反し、被控訴人に本件土地全部の使用を許すときは、その表裏の部分がともに一体をなし十分にその効用を発揮すべきことまことに明かである。これらの事情をあれこれ考えれば、被控訴人をして本件土地全部の使用をなさしめることが事宜に適するこというをまたない。被控訴人のなした前記拒絶の意思表示は、これをなす正当の事由を備えているものといわねばならぬ。
二、更に控訴人は、被控訴人の右拒絶行為は、権利濫用に該当し、許すべからざるものであると主張するから、この点につき審理を進めるに、控訴人は、昭和二十一年三月二十日被控訴人において疎開解除の予告を知るや、本件土地に繩張をなし、控訴人の土地使用を妨害するため、前記堀立小屋を建設したのであつて、このことは被控訴人が自らその建物を使用しないことに徴しても明かであると主張するけれども、成立に争のない乙第五号証の六、同第十二号証ならびに原審および当審における被控訴本人の陳述を綜合すれば、被控訴人が右地上に家屋建築を計画したのは、昭和二十一年三月四日以前であつて、被控訴人において本件土地に繩張をしたことがないことならびに被控訴人が右建物を建設するや、その一部は自己において使用し、他は重枝悟郎その他の者をして使用せしめてきたこと明かであつて(右認定に反する甲第十八号証の記載および原審証人川上重雄、当審証人五十嵐重男の証言は採用しない。)、事実は、明かに前記控訴人の主張と相違し、その他被控訴人が控訴人の本件土地使用を妨害するために、右堀立小屋を建設したものであるとの事実については、これを認めるに足る証拠はない。また被控訴人が本件土地に隣地を併せ宅地合計百十六坪余を有していることは、当事者間に争のないところであるけれども、このような事実あればとて、控訴人の本件土地賃借の申出を拒絶することを以て、反倫理的もしくは信義誠実の原則に反するものとは断じ難い。以上述べたところにより被控訴人の賃借申出拒絶行為が権利濫用に該当するものといいえないこと自ら明かである。
(奥田 牧野 位野木)